日本産科婦人科学会学術講演会で「産科危機的出血予測AIの研究成果」を発表
2022年8月 8日
東京女子医科大学附属足立医療センターの橋本和法教授、赤澤宗俊助教らとサイオステクノロジー株式会社の野田勝彦、吉田要らの研究グループは、2022年8月5日から7日に開催された第74回 日本産科婦人科学会学術講演会で「産科危機的出血予測AIの研究成果」(演題:”Deep learning approach for the prediction of postpartum hemorrhage in vaginal birth”)を発表しました。
「産科危機的出血予測AIの研究成果」について
産科危機的出血(PPH:Postpartum hemorrhage)とは、分娩時における命に関わる大量出血で、いまだ周産期母体死亡の第一の原因です。近年、血管内治療や手術療法が進歩してきましたが、これらの治療を迅速に行える施設は三次病院(24時間体制で高度な救急医療を提供する医療機関)に限られており、予測外の産科危機的出血の管理は難しいのが現状です。分娩前に産科出血を正確に予測できれば、大出血が予想される妊婦を出産前から三次病院で管理することができ、産科出血による母体死亡を防ぐことができると考えられます。
同研究グループは、1995年から2020年までに東京女子医科大学東医療センターで経腟分娩となった4,960症例を対象に、機械学習による予測モデルを構築しました。産科危機的出血の定義は、経膣分娩時の出血量が500ml以上の症例とし、特徴量としては25個の臨床データ(年齢、分娩回数、母体の身長、体重、分娩週数、分娩前体重児の出生体重、児の性別、骨盤位分娩の有無、急速遂娩の有無、誘発の有無)を使用しました。学習と評価に用いたモデルは、ロジスティック回帰、ランダムフォレスト、決定木、勾配ブースティング木、サポートベクタマシンの5つのアルゴリズムのアンサンブルと2層からなるニューラルネットワークで構成しました(図1:AIの内部構成)。このモデルによる予測精度はAUC0.679でした。重要な特微量は、児の出生体重、年齢、分娩前体重であることが認識されました。
【図1:AIの内部構成】
今回の研究では、約5,000件の経腟分娩症例を収集しましたが、PPH症例は約120件しかありませんでした。医学的問題では、陽性症例と陰性症例はほとんど不均一ですが、今回は陽性症例(PPH症例)が陰性症例(非PPH症例)の2%と非常に少数であったため、各機械学習モデルは陽性症例のパターンや特徴を十分学習できず、予測パフォーマンスは良好とは言えませんでしたが、機械学習モデルが、経腟分娩におけるPPHを予測できることを示唆しました。実際に経腟分娩においてPPHが発生する確率は非常に低いですが、経腟分娩症例ではPPHの予測が困難であり、世界中で毎年非常に多くの経腟分娩が行われることを考慮すると、経腟分娩でのPPHを予測するモデルの開発が望まれます。今後、数十万の症例を準備し、適切な変数を分析することにより、予測精度の向上が期待できます。
■特設ページ:第74回 日本産科婦人科学会学術講演会
■発表資料:「産科危機的出血予測AIの研究成果」(pdf)