番組制作に関わる人々の立場で開発されたプロフェッショナル向けのシステム

【VOICEs - 社内インタビュー】 放送局向けのWebサービス「DirectorsGear」は、テレビやラジオの番組で使用する放送用音源や楽曲に関する情報の入手、権利管理団体への報告といった複雑な業務を簡素化するWebサービス。その利便性から全国各地のテレビやラジオ放送局100局以上がメインサービスを利用し、放送業界では最も高いシェアを築いています。2015年秋に開始した新譜配信サービスはさらに50局が新たなユーザーとしてその利用を始めています(2016年2月時点)。採用が進む大きな理由の1つが、徹底したユーザー目線の仕組みにあります。サイオステクノロジー 第2事業部DirectorsGear事業企画部長の真下誠一にこれまでの開発経緯や、今後のサービス提供の方針について訊きました。

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音源を中心にプロフェッショナルを結びつけるWebプラットフォーム

― サイオスのDirectorsGear事業企画部は、自社開発の製品やサービスを提供する第2事業部の一翼を担っています。まずは改めてDirectorsGearとは、どのようなサービスなのか教えてください。

皆さんが普段、見聞きするテレビ番組やラジオ番組に切り離せないのが、さまざまなシーンで用いられる「音楽」です。歌番組のように楽曲そのものがメインの番組だけでなく、BGMとして長短さまざまの楽曲が番組内では使われています。1時間ほどの番組でも数百曲の楽曲が使用されることがあります。

それらの楽曲を世に送り出しているのは、様々なプロフェッショナル達です。作詞家・作曲家などのアーティスト、BGM作りを専門に手がけるクリエイターをはじめ、楽曲を収録した放送用音源(原盤)を制作する音楽出版社、流通用のパッケージ商品を生産・販売するレコードメーカー、新譜のサンプル盤を配布して放送局にプロモーション活動を展開するプロモーター、そして放送局ではシーンにマッチした楽曲を選定して番組を制作する音効、番組ディレクターなど多くの人間が関わっています。楽曲は著作物ですので、著作権・著作隣接権の管理および、利用の対価として支払われる使用料を徴収・分配する権利管理団体も、重要な役割を担っています。

そうした関係者を音源を中心に結びつけるWebプラットフォームが、私たちの提供するDirectorsGearです。数十万曲の放送専用音源ファイルや、数千万楽曲に上る膨大な楽曲情報データと関連情報にアクセスすることが可能で、ディレクターは制作する番組のシーンに応じてさまざまな楽曲を試聴・選曲することができます。一方、プロモーターは、150局以上の放送局のディレクターに楽曲を提案・セールスする機会が得られます。つまり関係者をマッチングし、よりよい番組作りを支援する機能をDirectorsGearは提供します。

さらに著作権・著作隣接権の利用に関する権利管理団体への利用楽曲報告等の、使用料の支払いに関する事務手続きもDirectorsGearの画面を通じて完結できる利便性があります。

その他にもDirectorsGearでは、放送局が自ら所有するCDライブラリを管理する機能、楽曲の円滑な二次利用のために放映済みの映像データと、楽曲情報をアーカイブするシステムとを連携する機能など、ディレクターの業務をトータルに支援する点に独自の優位性を持っています。

数十万曲の放送専用音源ファイルや膨大な楽曲情報データなどにアクセス可能な「DirectorsGear」の操作画面

History #1:映像・音楽の番組制作の腕を買われて富士通へ入社

― DirectorsGearは、放送業界向けに特化したソリューションなのですね。サイオスの提供するサービスの中でもユニークなポジションにありますが、そもそもどのような経緯で開発されたのでしょうか。

DirectorsGearは2007年に公式に発表されて以来、バージョンアップを重ねつつ大きく進化を遂げてきました。DirectorsGearのユーザーや関係団体との実証実験の成果も反映して、機能や使い勝手を強化しています。ただ、もともとの開発のきっかけはさらに前、いまから数十年ほど前に遡ります。

1980年代、私はプロダクションに勤めていました。放送番組制作やレコーディング業務を主とする「ユーザー」側にいたのです。この業界に入ったのは、音楽に関わる仕事に憧れていたからでした。最初にテレビ番組制作から始まりましたが、音を出すスピーカーが1つしかない。せっかく音楽に関わる仕事と意気込んで来たのにモノラルの世界は勘弁してほしいと頭を下げ、レコーディング班に配属を変えてもらい、メーカーのライブレコーディングやFM東京のライブ番組の制作を担当しました。連日、コンサート会場での仕事は楽しかったです。さらにその後、FM東京の制作会社に転職して、そこで夢のような現場仕事を3年程度やらせてもらいました。ですが夢も毎日続くと飽きてきます。制作会社を退職し、フリーのディレクターとなって放送番組制作やレコーディングエンジニア、コンサートコーディネート等を手がけるようになりました。

当時のクライアントの一社が富士通株式会社(以下、富士通)です。私の映像・音楽番組制作の腕を買ってくれた縁で私は富士通に中途入社することになりました。富士通が当時提供していたインターネットサービスInfoweb(1999年にNiftyServeと統合されて@niftyとなる)の芸能サイトを立ち上げ、そこで楽曲のネット配信などを業界に先駆けて試みました。

History #2:「著作隣接権クリアリングシステム」を考案

ところで、平成9年(1997年)の著作権法改正時に導入された「送信可能化権」という権利は、著作物をインターネットで利用する場合、権利者に利用許諾を得る必要がある、というものでした。改正後、私はすぐにJASRACという権利管理団体を訪ねました。JASRACの担当者も、法改正後の初めての対応です。互いに戸惑う場面がありましたが、対価として支払う使用料も含めて、利用に関する許諾契約(インターラクティブ)を交わすに至りました。後で聞くと「インターラクティブ」の契約第一号が私たちだったそうです。さらにその数年後には、放送で利用した楽曲の報告義務化や、さらに放送番組のネット利用も活発化する流れであったため、放送と通信の融合(古い言葉ですが)を実現するシステムの考案を始めました。

2001年、富士通社内の技術やアイディアを事業化する社内ベンチャー制度がスタートし、私は温めていたアイディアをそこで発表しました。考案したのは「著作隣接権クリアリングシステム」と言います。楽曲などコンテンツの二次使用に関する複雑な著作隣接権の許諾や、使用料の申請・決済を円滑化する仕組みでした。その提案が社内のベンチャー制度の最終選考を通過し、トップ賞を獲得することができました。ただ事業化にあたっては当時、資金面や技術面でまだハードルが高く、様子見状態としました。

History #3:ネット配信の普及とともに業界でも注目を浴びる

前述の賞を貰ったことは1つのターニングポイントになりました。超流通に関する技術を研究していた業界でも"名物おじさん"として知られる富士通の社員に声をかけてもらって社外プロジェクトに参加したり、電力会社と一緒に実証実験を実施したりと着々と実績を作り、ついに富士通社内での予算化に成功。事業を開始しました。ただ、その開発途中で担当役員が変わり、プロジェクトは中止に追い込まれました。中止の理由は「俺はコンテンツが嫌いだ」というその役員の一言でした。しかし当時、様々な企業とアライアンスを検討していたので、途中でやめるわけにもいかず、所属していた事業本部を出て、経営戦略室に拾ってもらいました。しかし、ここで事業計画書を新たに書き換える必要が出てきました。これには内心泣きましたが、晴れて研究開発費をゲットすることに成功し、プロジェクト再開に漕ぎ着けることができました。しかしながら経営戦略室はあくまで戦略室、そこでビジネスをすることはできません。当時の担当役員からは、(1)会社設立、(2)子会社への事業移管、(3)富士通社内のどこかの本部へ異動、という3つの選択肢が提示されました。当時、ニフティ株式会社(以下、@nifty)が上場を予定していたので私は(2)を選び、2007年にサービスをリリースしました。

History #4:危機再び、サイオスの事業として再スタート

サービス開始後、DirectorsGearを利用する放送局やレコード会社は次第に増えていきました。彼らの基幹システムとDirectorsGearはAPIを通じて連携することができます。膨大な音源データや付随する楽曲データをタイムリーにDirectorsGearのストレージに取り込めるように機能も拡充しました。データ構造やメタデータの仕様を整える独自のデータクレンジング技術を用いて、データは常に最新状態にメンテナンスされるような仕組みも用意しました。

「データ基盤も充実してきた。顧客の声も取り入れて、サービス拡充に向けた新たな開発プロジェクトに着手したい。技術者の採用も増やそう」と私たちは意気込んでいました。しかし、その矢先です。2012年頃、経営状況の変化があり新規プロジェクトはしばらく凍結される、という通達が全社に下されました。当時、DirectorsGearの基盤システムが稼動していたのは、@niftyのデータセンター。そのデータセンターも2014年11月に廃止されることが決定しました。

レコード協会との実証実験プロジェクトの開始が2014年であり、そのために新規にシステムを開発する必要がありました。そこで経営陣と相談し、社外に出よう、との結論に至りました。

もともと富士通の外から来た人間ですので、社外に出ることには抵抗ありませんでした。次を探し始めていたところに、サイオステクノロジーから、本社を東京都港区南麻布へ移転する、という内容の案内状が届きました。実は、以前にいちど、音楽業界の友人を介してサイオスの喜多社長に挨拶する機会があったのです。私はその案内状を見ながら、すぐにアポイントを入れたところ、喜多社長は会いましょう、と快諾してくれました。事業の審査を経て2カ月後、私はサイオスの一員となりました。

現在へ:既存のデータセンターからパブリッククラウドへサービス基盤を移設

DirectorsGear事業をサイオスが@niftyから譲り受けることになったのが、2013年11月でした。2014年11月のデータセンター廃止までに既存のシステムを別の環境に移設しなければなりません。とはいえ、数十万曲の楽曲データと権利管理に関わる膨大な情報からなるそのシステムは30台を超えるサーバーと数テラバイトのデータで構成された大規模なものでした。
この移設プロジェクトを担当したのが、サイオスの技術部マネージャ 情報セキュリティスペシャリストの小野剛とOSSテクノロジーセンター 技術部のエンジニア、原和久でした。

@niftyのデータセンターからどこに移設すればよいか。小野が注目したのが、パブリッククラウドサービス(AWS)でした。サイオスにとって、既存のサービス基盤をオンプレミスに移設する、という選択肢もありましたが、サーバーやストレージなどの資産を新たに抱えるため、少なからず初期投資が生じます。また調達に時間を要せば、業務が繁忙になる秋の番組改編期などに重なり、円滑な移設の妨げになる懸念がありました。

それに対して、パブリッククラウドを利用すれば、リソースを所有するリスクを回避し、短期間での調達が可能です。なお、ロードバランサーにはAWSが提供している機能では物足りなかったので、サイオスが商用サポートを提供しているOSSのNGINX Plusを利用して再構築しました。おかげで現在、DirectorsGearのシステム基盤は非常に安定した稼働状況にあります。

「ユーザー目線」と「何があっても継続」によって今がある

― こうして振り返ると、DirectorsGearの開発の背景には、楽曲流通に関するさまざまな業界のルール、そして著作権などに関する法律、録音機材などのハードウェアやソフトウェアに関する真下さんの豊富な知見が生かされているのですね。そして、徹底した「ユーザー目線」があるというのも本サービスの特長といえます。

DirectorsGearはおかげさまで、多くの関係者に支持されてきました。DirectorsGearの可能性に熱烈に共感してくれるユーザーがいたからこそ、厳しい局面を何度も乗り越えてこられたのだ、と思います。長年培ってきた放送業界、音楽業界、そして権利管理などにまつわる関係省庁、業界団体、専門家など多くのキーパーソンとの縁がなければ難しかったでしょう。

打ち明けると私は若い頃ミュージシャンになることを志していました。挑戦しましたが周りを見渡すと華々しい才能のある人間が大勢いることに気づかされ、夢は諦めました。けれども、好きな音楽に関わりながら業界を隅々まで渡り歩いてきたつもりです。その中で、音楽や番組を制作する作り手の思い、機材やシステムを扱うユーザーの様々なニーズをつぶさにつかみ取ることができました。そうしたニーズに対する解が関係者をつなぐプラットフォームとしてのDirectorsGearにも色濃く反映されています。だからこそ、DirectorsGearは今でもユニークなポジションを築いているのでしょう。何事も継続は力なり、ですね。

ただ、DirectorsGearはまだ完成ではありません。インフラ部分はサイオスに来てリニューアルされましたが、現在はさらにその上のレイヤーで稼働するサービスのパワーアップを図っています。一緒にサイオスでDirectorsGearを開発してくれるエンジニアを募集しているところです。ぜひ力を貸してください。一緒にビジネスを創っていきましょう。

プロフィール
真下誠一(Seiichi Mashimo)

サイオステクノロジー 第2事業部 DirectorsGear事業企画部長

テレビ・ラジオのプロダクション2社を経て、フリーのディレクターとなる。1997年、富士通株式会社に中途入社。2007年、ニフティ株式会社へ移籍。2013年サイオステクノロジー株式会社に中途入社し、現在に至る。

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