SAPもクラウドに移行する時代が本格到来。移行で注意すべきことは?(前編)

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BeeX-Mr.Hiroki

株式会社BeeX(ビーエックス)
代表取締役 広木太氏

世界のリーディングカンパニーで利用されているSAP社のERP。従来はオンプレミス環境で運用するのが当たり前の世界でしたが、現在ではこの企業の中枢システムをクラウドへ移行する流れが加速しています。

そこにはどのようなメリットと、注意すべき点があるのでしょうか?

今回は、SAPを初めとする基幹系システムのクラウドマイグレーションやマネジメントサービスを提供している、株式会社BeeX(ビーエックス)の代表取締役である広木太氏、マネージャーである星野孝平氏にお話をうかがいました。

–まず、BeeXについて教えてください。

広木氏:
 BeeXは2016年の3月にできたばかりの会社で、いわゆるエンタープライズのお客様向けにSAPを中心とした基幹系システムのクラウドマイグレーションと、導入後の保守・運用サービスをご提供しています。SAPのBASISと呼ばれる基盤部分、具体的にはクラウド環境、OS、DB、ミドルウェア部に関する構築、運用、最適化までの領域をカバーしています。

–お二人の自己紹介をお願いします。

広木氏:
 私はもともとハードウェアベンダー出身で、BASISと呼ばれるSAPの基盤部分、テクニカルレイヤーを強みとしてプリセールスやコンサルティングを行ってきました。その後、別のコンサルティング会社に移り、同様にSAPのインフラ構築、運用に携わりました。

 SAPのプロジェクトも、振り返るといくつかの段階に分かれ、その時代ごとの流行のようなものがありました。「大型のUNIXサーバーをIAサーバーへマイグレーションする」といういわば一次ブームがあり、「サーバー仮想化」という二次ブームを経て、現在は「クラウド化」の三次ブームが到来しています。そこでSAPを中心とした基幹系システムのクラウド化に特化することでお客様のニーズに迅速に応えるべく、BeeXを立ち上げました。

BeeX-Mr.Hoshino

株式会社BeeX(ビーエックス)
マネージャー 星野孝平氏

星野氏:
 私も以前からSAPのBASIS系の仕事をしてきました。広木と出会ったのは10年ほど前になるのですが、アップグレード、マイグレーションなど得意分野が共通していることもあり、合流しました。

  ちょうどプライベートクラウドが流行りはじめた頃で、そこからどんどんクラウド寄りの仕事をするようになり、現在に至っています。

 

日本におけるSAPとERPの歴史

–日本では1990年代中ばからSAPが使われ始め、今では相当数のSAPユーザーがいます。一方ERPといえば国産ものも含めて様々なパッケージが存在しています。その中で敢えてSAPのERPを選択するユーザーの目的や特徴は何でしょうか。

広木氏:
 当初よりSAP ERPを導入する際には、単なる会計や人事システムを作りたいといったところに留まらず、包括的に世界的なベストプラクティスを取り込んで、業務プロセス自体の最適化を行うことを目的とし、さらに大福帳型データベースによるデータの一元管理や即時性を追求することでリアルタイム経営の実現が求められていました。それ以外に、グローバル対応を目的とした多言語・多通貨へのシステム対応ニーズもあったと思います。

 最近では、IoTを含めた「デジタルトランスフォーメーション」を意識するお客様が増えています。IoTやセンサーデータを含めたより多くのデータを、一つのシステムで一律に可視化して経営に活かしていこうという、先進的なお客様にも選択されていると思います。

–やはり企業規模としては大企業が多いのでしょうか。

広木氏:
 大企業だけでなく、従業員規模で200~300人くらいの中堅企業でも導入されています。もっとも、導入しているレイヤーが限られているケースもありますが。

–冒頭で、日本のSAPユーザーの運用環境が、大型のUNIXサーバーからIAサーバー、仮想化環境へと変遷してきたと伺いましたが、現在はどのような状況にあるのでしょうか。

広木氏:
 VMwareを使った仮想化は2000年代後半から始まりました。でも当時は、仮想環境ではSAPのような基幹システムは動かないだろうと言われていました。AWSのようなハイパースケールのパブリッククラウドがSAPから認定されたのは2011年から13年頃ですが、当初はアップグレード作業などの一時的な利用目的か、災害対策が中心でした。

 さらに基幹系をクラウドに持っていくことについて検討する機運が高まったのは、2015年頃からでしょうか。現在は、まだプライベートクラウドを選ぶお客様も多い状況ですが、すでに本番運用で数年経過した先進企業の事例も出てきています。

SAP ERPのサポート終了とS/4HANAへの移行

― 一方でSAPは、従来型のERPがEOS(End of Support:サポート終了)に向かいますが、まず何に着手すべきでしょうか。

広木氏:
 現在最も使われているSAP ERPバージョン6.0の製品保守が2025年までなので、いつかはS/4HANA化はせざるを得ません。時間はあるようで、それほど余裕はありません。

 これまでもERPはアップグレードを繰り返してきているのですが、S/4HANAは今までと違ってかなり大規模に変わります。よってこれまで開発してきたアドオン資産をS/4HANA向けに改修して使っていくのか、それともこの機に刷新して作り直すのかを早めに検討する必要があります。

 これはテクニカル視点というよりも業務視点で決めることになります。長年に渡って開発してきた今のシステムが出来ることと、これからやりたいことがマッチしていないお客様も存在しますので。実際は、この検討まで至っていないお客様が多いのですが、非常に重要な道筋だと思います。

—技術的な観点から、S/4HANAへの移行に際しての、課題や難しさはありますか。

星野氏:
 S/4HANAになると作り直さなければならない部分がアドオンを含めて多いということです。たとえば、S/4になるとテーブルが集約されて中間テーブルがなくなりますので、アドオンが中間テーブルを利用している場合は修正が必要です。

 S/4HANAへ移行するにはデータベースはHANAを使わなければなりませんが、HANAで最大限の性能を出すためには、HANAに最適化してコーディングをしないといけないということもあります。さらに、DBに関するノウハウの取得においてもOracleやSQL Serverであれば、長きにわたって汎用的に利用されてきたこともあり、Google等で調べることもできますが、HANAになると今のところSAP社以外からの情報は乏しいのが現実です。

–他のDBからHANAへの移行ツールは揃っているのでしょうか。

星野氏:
 SAPが「Database Migration Option(DMO)」というツールを出していて、比較的移行はしやすいです。ユニコードコンバージョンが前提になるのですが、ユニコード化も一緒にやってくれますから、その辺は割と手厚く用意してくれています。

 ツールとしては枯れているため、安定して動作します。自動でいろいろとやってくれるのですが、そこにはメリットもデメリットもあります。BeeXでは、短期間で移行したいお客様のために時間短縮の手段をいろいろと検討するのですが、ツールで自動化されているところは、手を入れるのが難しいこともあります。

広木氏:
 そういう意味ではDMOは、大規模なお客様で、あまりシステムを長期間止められないところではなかなか難しいですね。SAPはSLOというツールも出しているのですが、移行作業が複雑で手間がかかりますし、ツールの自体も有償ですので、結果的に移行コストがかなり高くなることを考えると、ちょっと気軽に使えるものではありません。

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